
院長ブログ
噛み合わせ治療と顎関節の重要な関係
- 2025年9月18日
- 噛み合わせ
『インプラント治療(噛み合わせ治療)のきっかけについて』
約27年前、まだ私が開業して間もない頃のことです。
当時、母は右下の奥歯がなかったことで不自由していました。
学生の頃から口腔状態について母とだけでなく、今は亡き父とも相談していました。
なんとか「噛み合わせを治したい」という私たち家族は母の希望を優先し、部分入れ歯ではなく、インプラント治療で「噛み合わせの改善」を行うことになりました。
当時、私はインプラントの治療を経験したことはありませんでしたので、それは必死になって勉強をしまくりました。オペについては模型実習などを繰り返し、当日も経験豊富な先生にアシストをして頂き、無事にインプラントのオペを行うことができました。
インプラントの経験が無い私に、母親からの愛情と勇気のおかげで、歯科医師としての貴重な経験を積むことができました。
思い出すたびに心にグッとくるものがあります。(ありがとう)
最も大切な存在である家族として向き合うだけでなく、患者としても母と向き合ったことは、私にとって医療人として非常に重い意味を持つ経験でした。
それをきっかけに、私の治療の種類にはインプラント治療が加わりましたが、もっと良い治療をしたいという欲望に駆られ、今でも海外・国内問わずに研修を繰り返すようになりました。
『噛み合わせ治療の意義(インプラント〜矯正〜顎関節まで)』
インプラント治療、入れ歯治療、ブリッジの治療は欠損歯に対する治療で、専門的な用語で「欠損補綴」と呼ばれています。
これらの治療に共通することとして、欠損部の骨の状態を診ることはもちろん大切なのですが、それだけでは不十分で、隣の歯の状態、噛み合う歯の状態、さらには口腔内全体の歯の状態などの他には、治療後の長期的な安定には、さらに重要なことがあるのです。
インプラント治療などの欠損補綴の治療には、歯が無いスペースに単純に歯を補うということでは不十分で、歯を失ったことによる歯のずれの改善、歯を失うことになった根本的な原因の解決など、口腔全体が関連する噛み合わせの問題を解決することが必要になる場合が少なくありません。
POINT
さらに付け加えますと、噛み合わせ治療は、歯の欠損・残存歯などのいわゆる歯の部分だけを対象にした治療でなく、実は、「歯・顎関節・筋との3つ」をセットとして対象にしている治療方法なのです。
そして、一人一人の患者様にとって、理想的な噛み合わせを求めるために、「歯の状態」だけでなく、
- 顎関節の状態
- 噛むための筋肉の状態
- 骨格と顔貌の状態
- 実際の開閉口運動の状態
- 中心位への誘導(習慣的な顎位と、筋の過緊張が改善された顎位の違いを調べる下顎誘導方法)
などを精密に診断し、様々な噛み合わせ理論に裏付けられ、さらに個々の患者様にとって、違和感が無く自然、顔貌も綺麗で、歯・顎関節・筋肉に対しても負担の少なく、「個々にとって理想的の噛み合わせ」の追求と提供に尽力してきました。
顎関節について
特に重要なことは、顎関節という頭蓋骨と下顎骨を繋いで蝶番になっている箇所の診断ですが、私たちからは直接見えない部分でもあります。
また、顎関節は、食事や会話などで頻繁かつ複雑に動く下顎の動きに対応するために、他の関節とは異なる特殊な構造と性質を持っているのです。
私たちの体の中で、
- 正中を挟んで左右にある関節は顎関節だけです。
- 動く時に、回転運動と滑走運動をするのは顎関節だけです。
- 他の関節は、骨の端の部分が硝子軟骨(動きをスムーズにする)ですが、顎関節だけは繊維軟骨で、コラーゲン線維が豊富で、張力に強く、弾力性に富んでいて、力も分散させることに適しています。
- さらに、下顎の骨と頭蓋骨のくぼみの間に、関節円板という線維軟骨が存在します。この円板がクッションとなり、口を開け閉めする際の回転運動と滑走運動を滑らかにしています。
- 顎関節の軟骨は一度すり減ったり損傷したりすると自己修復は困難と言われています。
といった特徴があります。
噛み合わせ治療と顎関節
「咬合治療には、顎関節の診断が重要」という考え方は、「世界的にもコンセンサスが取られている」だけでなく、現在は、顎関節診断は、噛み合わせだけではなく、顎口腔系全体の健康と機能、ひいては患者の生活の質(QOL)に貢献するための、より広範で統合的なアプローチの出発点として機能するとも考えられています。
以前から、この顎関節の状態を見える化し、噛み合わせ治療に活用するために、寿谷一先生が提唱した2次元の画像から診断する方法を行ってきました。
そして、2010年にCTを導入したことで、3次元での診断も行えるようになりました。
このことによって、私の噛み合わせ治療の精度が格段に上が流用になりました。
それは、顎関節の状態が見えることと、他の検査と組み合わせることで、噛み合わせに関しての問題が明確になったからです。
問題が明確になれば、解決方法、つまり治療方法が明確になります。
例えば、インプラント治療が必要になる方は、噛める箇所が少ないこともあって、下顎の位置がずれています。インプラントが入った時に、下顎の位置が変化します。そんな時に羅針盤になるのが、顎関節の診断です。
矯正治療も同様です。治療前に、歯並びに影響している原因は骨格的なことなのか、後天的な機能的なことなのかの診断にも活用します。また矯正治療前と治療中で下顎の位置が変化します。この状態を評価するには顎関節の診断が必要になってくるのです。
POINT
逆に、顎関節の診断を行わずに噛み合わせ治療を行うことは非常に難しいと思います。
顎関節のCT画像診断を活用した初診時の診断と治療ゴールの設定
話は戻りますが、CT導入以来、これまで2000人以上の顎関節・顎位の診断・治療を行い、噛み合わせ治療に応用してきました。
最初に述べた検査の中でも、特に重要なことは以下の3つです。
- 中心位と呼ばれる筋肉のバランスがとれた顎位への誘導時の噛み合わせ状態
- 開閉口時の下顎運動の経路と開口量
- 顎関節の形態と隙間の大きさの評価
その中でも、初診時に上記の3つの検査を行い、特に3.の顎関節の状態をCTで特別な撮影方法で確認することで、「頭と下顎の位置関係」に問題があるかどうかが明確になり、噛み合わせの不調和の原因を見出すことができるのです。
これら3つの精密診断と、中心位誘導方法によって、頭蓋に対して最も調和のとれた「理想の下顎の位置」を導き出し、理想の噛み合わせ状態、つまり噛み合わせ治療のゴールを見つけ出すのです。
感謝
現在も、母のインプラントは定期的なメインテナンスのもとで機能しており、このことは私自身の「噛み合わせ治療」に対する姿勢を形づくる原点となっています。
インプラントと骨との結合、その周囲の歯肉との調和、他の歯との調和、そして長期的に維持されるための「良好な噛み合わせ」と「健康な歯周組織」の両方が達成されている口腔内環境——それらすべてを考慮しなければ、本当に意味のある治療とは言えません。
歯科医師として、この治療方法は「自分の家族に提供できる治療かどうか」と常に自問自答しながら、すべての患者様に家族と同じように向き合うことが、私たちの診療の基本方針です。
これまで30年間の臨床の中で、ありがたいことに多くの患者様と向き合いながら、「長く、快適に、自然に使っていただける」ことの大切さを深く学びました。
本当に心からの感謝申し上げます。
一人ひとりの患者さまにとって、何がもっとも安心できる選択か。
「目先の治療成果ではなく、10年後、20年後の健やかなお口の状態をともに目指す。」
そのような思いで、これからも診療を続けてまいります。
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